風吹かばうち捨てらるる扇かも 秋が来ぬとは思わぬものを
滴塵011
本文
風吹かばうち捨てらるる扇かも 秋が来ぬとは思わぬものを
形式 #和歌
カテゴリ #6.情愛・人間関係
ラベル #恋愛 #秋 #無常
キーワード #扇 #風 #秋 #捨てられる #恋
要点
恋のはかなさを季節の移ろいに寄せて詠む。
現代語訳
秋風が吹けば捨てられてしまう夏の扇のように、秋が来ることを分かっていなかったわけではないが、恋の終わりが本当に来るとは思わなかった。
注釈
扇:夏の象徴で、秋には不要となり捨てられる。ここでは寵愛される女性のメタファー。
うち捨てらるる::見捨てられてしまう。
秋:恋の冷えや終わりを暗示。「飽き」と掛詞
秋が来ぬとは思わぬものを:季節が移り変わることは分かっているのに。恋が終わることは分かっているのに。
解説
夏の扇が秋風によって簡単に役目を終え、捨てられてしまう。そのはかなさを恋愛に重ね、恋の移ろいもまた季節の変化のように自然であることを暗示している。表面的には諦観の歌でありながら、心の奥には「去ってほしくない」という切実な願いが潜む。恋愛の脆さと人間関係の無常を、日常的な物具を媒介に鮮やかに描き出している。
深掘り_嵯峨
これは、平安文学以来の伝統的な無常と恋の哀しみを詠んだ歌です。夏の終わりに扇が不要になるように、愛情や寵愛も季節の移ろい(時の経過)とともに失われてしまうことへの不安を表現しています。
扇が「風吹かば」という外的な力によって捨てられる可能性を示唆しているのに対し、「秋が来ぬとは思わぬものを」という後半は、理屈ではその運命を理解しているにも関わらず、感情がその悲劇を拒めない、という人間の普遍的な矛盾を浮き彫りにしています。諦めと未練が交錯する、切ない一首です。